うたの命、作者の命2014年12月26日 21時28分42秒

★笠木透さんを偲ぶ              アクセスランキング: 127位

 実は、昨日クリスマスの朝早くから、また山梨の古民家へ久々に老親を連れて一家で出掛けて一泊し今日の夕方帰ってきた。
 向こうでは、時間はあまりなかったが増冨の湯へ足を伸ばし、薬効あらたかな温い湯に浸かり秋からの疲れをじっくり癒してきた。

 そこで考えたことや新たに得た思い、決意などはまた書き記しておきたいと思うが、戻って昨日25日の新聞をようやく開いたら訃報欄に笠木透氏の名と顔写真が載っていて驚きと共に哀しみの複雑な気持ちにさせられた。77歳で癌とあったかと思うが、相応の年代なのかもしれないが直接の面識はなくとも惜しい方をまた失った気がしている。

 そう、あの中津川フォークジャンボリーの仕掛け人、の笠木さんである。新聞にはフォークシンガーという肩書があったが、むろんその通りであるけれど、自分にとってはやはり全日本フォークジャンボリーを企画した岐阜労音の人というイメージは変わらない。つまりまずその企画者として知られ、後にシンガーとして活動を本格化された方ではなかったか。

 マスコミでの扱いもそのフォークジャンポリーの人、という捉え方がやはり多く、フォークシンガーとしての扱い、評価は小さいようであった。いずれにせよ、マスコミにとって彼はメジャーシーンで活躍した人でもなくヒット曲があるのでもない故、記事にしにくいのではないかと思う。
 個人的に直接会い、語り、知り合う機会はなかったし、世代的にもかなり上の方であったのでまさに「伝説の・・・」というイメージはあるけれど、彼の残した曲は意外に知っていることに気がつくし、彼の存在、活動を顧みるとき、自分にとっても大きな意味を持つことに今気がつく。
 それは歌とは何か、何を唄にして、どう唄っていくかという根本的な問いかけである。

 うたをビジネスとして、商業ベースに乗せてやっていくことは簡単そうに見えて難しい。今ではインディーズと称して自らの楽曲をCDなどに制作し自主制作から販売までも手掛ける道筋も確立している。しかし、この国にフォークソングという「若者たちの、若者たちによる、若者たちの歌」とそれをうたう運動が生まれたとき、そのうたう場と共に、ではどうそれをレコードなりにして普及させていくかということは大きな障壁であった。
 むろんそれに風穴を開けたのは秦政明氏のURCであったし、以後その成功に倣い、エレックなり大手レコード会社内にもキングのベルウッドのようにそうした専門レーベルを立ち上げ「ビジネス」として手広く展開させる手法もあった。

 が、それはつまるところ常にヒット曲を求められ、人気アーチストと収益との狭間で当初の志の行方を問われる結果となっていく。つまり売れたものが良いとは限らないし、売れないものが悪いわけではないが、商業ビジネスの世界では、そこでしか結果が見えないという悪弊的ジレンマであった。
 そうしたシステムにフォークソング自体が組み込まれ、後にニューミュージック、やがてJ・ポップなるものへ変質していく流れの中でフォークジャンボリーの仕掛け人がとった行動こそ、うたの根本原理主義的なものであった。つまり極めてアマチュア的スタンスで、自ら自分たちでうたを作り、その唄う場を求めレコードも自ら作りマスコミやショービジネスとは一線を置き音楽活動をやっていこうというものではなかったのかと推察する。

 それが成功し実を結びまたさらに芽を吹いたかの判断はともかく、彼のやったことや考えたことは全く正しいと言えよう。じっさい高石友也氏や藤村直樹氏、坂庭省吾氏、中島光一氏、それにやや異なるが豊田勇造ら同様な思いを抱き、メジャーシーンとは距離をあえて置いて独自に活動をつづけたシンガーも多々いたのだから。

 うたが、当初持っていた「志」のようなものが、それがレコードとして売れヒットすることで失われ変質していった中、笠木氏のとった行動と運動は実に今なお大きな価値を持つと断言する。
 最近になって拙くも歌いだした者として、今ようやく気がついたのは、うたとは歌いたいから唄うのであってはならないということだ。うたとは、歌いたい以前に「訴えたい」もの、つまりうたを通して伝えたいものがあってこそ歌なのだと、今残された笠木透の作り唄ったうたを思い浮かべて確信する。
 
 彼は死んでも彼の残したうたはこれからも彼からバトンを手渡された者たち、たとえば若きバイオリン弾き社会派シンガーのみほこんらに間違いなく歌い継がれていくことであろう。
 作家は必ずいつか死ぬ。しかしうたは死なない。歌い継ぐ者たちがいるかぎり。

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