ファックス電話機について考えたこと・続き2019年01月06日 00時01分45秒

★時代の流れに取り残されたものと我ら

 FAX、つまりファクシミリについては特別な思いが我にはある。
 電話回線を使ってだが、瞬時にして相手方に原稿が送れる、受け取れるということはまさに画期的発明であった。インターネットが普及する前、その先鞭をつけたとも言えよう。

 いったいいつから一般的に用いられるようになったかわからないが、それまでは、出版などの原稿の受け渡しは基本直接であった。
 つまり編集者が受け取りに来たりこちらが大慌てで会社に持ち込む。書き手が遠路や地方にいる場合は、郵送するしか手はなかった。

 我は若い頃、といっても30代にはなっていたと思うが、物書きの端くれというか、そうしたことに関わっていたことがある。
 その頃はもうファックスは普及していて、どんなに〆切間近であろうと、タイムアップギリギリでもともかくファックスで送信さえすれば即届くのでとても有難かったと記憶している。
 当初は自宅にはまだその機械がなく、その送受信機がある近くの青写真を扱う印刷会社へ原稿を持ち込みに行き、そこから送っていた。使用料というか送信代は一枚いくらだったのか思い出せない。100円だったか。

 やがて、すぐにパナソニックの「おたっくす」というファックス機能付き据え置き電話が家庭に普及して来てさっそく我も購入した。ずいぶん原稿送信に活躍した。逆に〆切催促などでキレた編集者からのお怒りのファックスも始終届きもしたが。
 じっさいファクシミリなる電話回線送信システムがなかったらば、郵便制度が確立した明治の頃と全く同じで、人々は郵便で信書同様、原稿などのやり取りをしなければならなかったのが続いていたことだろう。
 感熱紙の印刷は荒く汚くとも、こちらの元の原稿は手元に残り、一枚づつ送信すれば瞬時に相手方に次々と届いて電話でまた確認のやりとりもできるのもじつに有難かった。
 そうした「黄金時代」を知る者として、ファックス機能は必要不可欠だと思いこんでいたわけだが、今回その電話機が壊れてあれこれ新機種を探してみてハタと気づいた。考えた。

 そう、我も含めて今の人はもうファックスはさほど、いやほとんど使うことはないのであった。考えてみると、昔は日常的に友人間とも気軽に送受信していたわけだが、ネットの普及で、紙の手紙と同じくそうしたやりとりはほぼ全部メール等で済んでいる。
 メールならば添付ファイルで文字原稿のみならず画像、あるいはときに映像でさえアプリを使えば相手方に送ることができる。かつてファックスでやっていたことはもはや全てインターネットで、さらに綺麗に代用できるのであった。
 ゆえに家庭にはファックス送受信機など今日まず必要ないわけで、ニーズもないから機種も製造メーカーもどんどん減るばかりで、今回のように選択肢もないのが当たり前の現状なのであった。

 思えば、昨今、我にファックスが届くのはごくたまに京都の老詩人から、こちらが何か送ったときの到着の御礼文とか、亡き母の友人知人から連絡等がたまにあるだけで、宅電そのものも含めてほとんど電話さえも直に今の我にはかかってくることはまずないのであった。
 喫緊の用件は、携帯電話とスマホのメールで事足りてるし、ファックスでやりとりするのはそれしか未だ手段がない老人世代だけであったのだ。

 しかしだからといって、宅電もファックスも今回もう撤廃してしまうわけにはまだいかない。やがてはそうなるとしても父が生きている間は、電話はまだ様々な用件としてかかってくるし、ごくごくたまにでもファックスが何かしらの理由で届くときもあるはずなのだ。
 毎年利用している、お歳暮やお中元の注文だってファックス送信以外に注文書を送る方法がない。まあ、郵便という手もなくはないけれど。

 で、けっきょく何を購入したのか。当初は、そのパナソニックの、使い慣れた感熱ロールタイプのを買うと決めていた。それしかないと思った。
 しかし、いろいろ調べてみると、ウチにあるのとは異なり、まず用紙がB判ではなくA判サイズで、しかも太巻きのそれは入らないことがわかった。つまり一回り用紙も小さく、入るロールのサイズも限られていて、それ専用のロールを純正品で買わねばならないようだ。
 どうしたものか。さらに冷静に考えると、感熱紙であろうとなかろうとファックス自体、自分でさえ今ではほとんど使わないのである。そのために二万円近く出すべきか。

 で、みつけたのが、ブラザーの複合機プリンター、プリビオ MFC-J737DNという機種で、コードレス電話機1台が付属する、前面2段給紙/手差しトレイ対応のFAX機能付きインクジェットプリンター と謳っていた。
 いちばん下位の機種であるその値段は二万円はせず1万9千円台が相場であった。我が買おうと考えていた、パナソニックの感熱紙タイプとほとんど価格の差はない。
 しかも画像をご覧になればわかるように、この機種は、プリンター自体に電話機、つまり受話器などが付属しているのだ。
 他社にもファックス機能付き複合機のプリンターはいくつもあるけれど、それには電話機は付いていない。つまり電話機、子機も付いていてそのまま電話として即使えるタイプは、このブラザーの同シリーズしかないことがわかった。他社にあったとしてももっと高いことは間違いない。
 しかも我はヤフーのポイントもまだ少し残っていたので、それを充てれば当初決めていたパナソニックのより少し安く買えることがわかった。

 プリンター自体は、既に何台もウチにある。が、それだっていつ壊れるか分からないものだし、基本消耗品なわけで、単に使用頻度の低い感熱紙のファックスしか使えないタイプよりもスキャナーも含めて多岐に汎用性があるこの複合機のほうが後々役立つと思えた。予備として今あるのが不調になったときもこれで安心である。
 で、正月明けにヤフーを通してケーズ電機に注文したら24時間もしないうち昨日5日午前にすぐに届いた。見たら立川の倉庫からの発送だったから当然であった。

 昨日午後、箱から出してともかく階下の、電話機のあった場所にセッティングして、まずは電話として使えることはすぐ確認できた。
 ただあまりに多機能で、留守電機能もファックス送信のし方も含めて、ガイドブックをそうとう読み込まないと簡単には使いこなせそうにない。しかし、コストパフォーマンス的に考えても新たに買うならばこれしかなかったと思うし、今は満足している。

 電話回線を利用するファックスという機能と仕組み自体は、その専用電話機があるかないかではなく、かつてファックスを利用していた我ら世代がまだ健在のうちはなくならないと思える。
 今だって商品の注文販売や問い合わせ窓口などの現場では、お問い合わせの電話番号と並んでどんな会社、業者でもファックスの電話番号をパンフや商品自体に記載している。
 じっさい面倒なメールアドレスやURLを入力するより、ファックス専用の電話番号で質問書や注文書を送るほうが簡便と思える。いちいち相手に合わせて向うの専用フォームに書き込んでいくのもひと手間かかるのだから。 
 しかし、個人の間では、何であれやりとりとして、近いうちにファックスでの送受信は利用されなくなるかもと思える。ネットで他のもっと精度の良い、簡便な手段があるならば、何も前時代的手法に固執する意味がない。だいいち家庭的にそれを利用する人たちがほとんどいなくなれば、その機械自体、製造も販売ももはや風前の灯なのである。

 そう、それこそが時代の流れであり、今様、今日的ということなのだ。
 かつては東海道を旅するのに、人は皆わらじ履き徒歩、つまり自らの足で歩いて行くしかなかった。庶民にはそれしか手段はなかったし、それが当たり前で他はなかった。しかし今日そんな風に徒歩で旅する人はよほどのモノ好き以外いないし、誰もがもっと簡便な新幹線や飛行機、バスを用いる。早いし結果として間違いなく安く上がるからだ。かつての手段は今日の選択肢にハナから入らない。
 同様に、ファクシミリ送信も今日、21世紀半ばへと向かうこの時代は、今の人たちの選択肢にはなりえなくなるのであろう。
 この世は商売の世であり、商売とはつまるところ利用者の多寡、そこで儲けの有無しなのだからいたしかたない。

 こうした機械、前時代的ハイテク製品はいくらでもある。レコードやカセットテープそうだろうし、家での固定電話、やがて公衆電話だってそうなるだろう。
 先だって、通信大手会社のどこそこがトラブルを起こして、かなりの時間、携帯が不通となったことがあった。夜のニュースでその日の出来事を報じていて、友人と待ち合わせしていた一人の女の子は、生まれて初めて公衆電話を使ったとコーフン気味に話していた。今の人は公衆電話さえ利用したことがないと知って呆れ驚くしかない。
 時代の流れというか、時が過ぎていくとはこうしたものだと年寄りはただ嘆息するしかないではないか。