終わり、始まり、そして続けていくこと・続き2022年06月06日 08時35分08秒

★この身が尽き果てるそのときまで~亡き人・ゾウさんを思う

 考えてみれば、人生というもの、つまり人の一生とは、始まりと終わりの繰り返しだと気づく。
 誰もが通る道だって、小学校から、中学、高校、またときにさらにその先の進路先も、そのときどき入学と卒業、ときに中退という「始まり」と「終わり」を繰り返していく。
 そして社会に出たとしても、どんな仕事に就くことでさえ始まりがあり、いつかは退職、その仕事をやめるとき、という終わりが必ずやってくる。まあ、研究者や学者、作家、芸術家のような「趣味的」稼業の人などは、生涯現役という、生ある限り終わりのない人生も有り得るが。

 人との出会いもまた同様であり、会うは別れの始まりという至言のとおりに、必ず別れという「終わり」の日がやってくる。愛する人とでさえも。
 人生とは、そうした始まりと終わりを繰り返して、やがてその人にとって、本当の「終わり」がやってくる。そして残念だが、この地上の世界、現世では、その先の「始まり」はもうない。
 だからこそ、この世では、命ある限り、始まりと終わりを乗り越えて、この身が尽き果てる、真に「終わり」の日まで「続けて」行かねばならぬと気づく。

 このところやっと少しだけ時間的余裕ができたので、友人から頂いた本、『プカプカ~西岡恭蔵伝』を読み進み、時間はかかったがようやく読み終えた。
 約10年近く取材から執筆に時間をかけた労作であり、いろんな意味で感慨深く同時代を知る者として示唆に富み多くのことを考えさせられた。
 近いうちにきちんとこの本の「評論」というか、感想文を書き上げたいとも思うが、恭蔵こと、ゾウさんは、けっきょく人生の三分の二のところで、自ら命を絶ち、終わらせてしまったんだなあと今更ながら思い至った。

 ゾウさんが死んでもう20年以上過ぎた。生前のステージは一度だけ70年代の天王寺公園の春一番で観れた。
 彼は、愛妻KUROとの25年間の結婚生活を終え、先に癌で逝った彼女の後を追うように50歳で亡くなったわけだが、それも仕方のないことだと思えるものの、やはり何ともやるせない、音楽界にとっても実にもったいない人を失ったと今でも強く思う。
 当時の日本人男性の平均寿命が約75歳だとして、まだ25年間も人生は残っていたのだ。偉丈夫な人だったから、ロープに手をかけなければたぶん今も健在だったのではないか。
 けっきょく、愛妻との死別という「終わり」のあとに、彼女のいない新しい人生を「始める」ことができなかったのだと今思える。※2年間は追悼の後始末し終えたものの。

 自死の理由や原因は当人以外わからないし、他者があれこれ推察したり言うことはセンエツであり控えるべきだが、愛する人との別れの後に、その大きな不在の中で、また新なスタートはやはり辛く大変だったのだろうと容易に推測はできる。
 この我も母の死後は、数年間、何もかもが意味を失い、見るものすべて色さえ失って見えて何もかもやる気が失せてしまった。
 ただ、ゾウさんには素晴らしい音楽があったし、善き仲間たちもたくさんいた。まだまだ生きていればきっと彼にしか作れない素晴らしい楽曲を多々またつくり唄ってくれたはずで、その使命と役割は間違いなくあったのに、残りの人生を始められず自ら断ち切ってしまったことは本当に悔やまれる。

 古今東西、人は、終わりある人生だからこそ、永遠と永遠的なものを乞い求め憧れる。そしてその一瞬を、永遠にしていきたいと心に刻む。
 ゾウさんはいなくなって久しいけれども今でもまだこうして評伝が書かれ、彼の歌は今日もあちこちのライブハウスで様々なシンガー、ミュージシャンたちに唄い継がれている。
 誰が言ったか、書いたものか失念したが、ソングライターにとって唯一の願いは、その作者の死後も、書いた楽曲が世に残り、誰が作ったのかわからなくなったとしてもその「歌」がいつまでも歌われていくことだ、と。
 確かに、小説家であらば、その作品が死後も読み継がれることを願うだろうし、芸術家でないとしてもクリエーターの願いは、ただ一つ、作者の死後も世に残る作品を遺せるかどうか、ではないか。
 そう、その一瞬を「永遠」にして残したい、のだ。

 ソングライターは、皆誰もが1曲でもそうした自らの死後も世に残る楽曲、作品を書きたい、遺したいと強く願う。
 ならば、ゾウさんは存分にそうした楽曲をKUROと共に遺している。
 個人的に、そうした中から1曲を選ぶとしたら、我は、「プカプカ」ではなく『街の君』を推したい。唄っているのは、ゾウさんのももちろん良いが、はちみつぱいをバックにした、あがた森魚のバージョンである。

 この稿、終わり。

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