現代商売考・1の続き2013年05月19日 04時34分13秒

★「限定・希少」という誘惑に人は弱い。

 当然のこと、かつて一度は世に出たものの絶版、廃盤となった本やレコード(CD)などが山ほどある。版元、出版社、本なら本で作者の手元にもない本もある。

 アマゾンの膨大なリストには、私家版などを除いた世界中で販売された「商品」が何万点と載っているわけだが、むろん本でもCDでもハードもソフトも抜け落ちているものが多々ある。
 疎にして漏らさず、という言葉があるが、密にして漏らしている。どれほどコンピュータが発達しようと過去のものも含めたら神ならぬ人間のこと全てを網羅することは絶対にできない。必ずミスや漏れが出る。

 古本稼業を始めて、アマゾンのマーケットプレイスで売るには、まずはISBN(本の個々識別番号)で検索する。たちどころに現在の最低値と出品点数が出てくる。ISBNのない古い本や雑誌類でもタイトルと著者名、出版社名など入力すればたいがいはヒットする。

 しかしごくたまにISBNは付いていてもアマゾンのリストに載っていない本が出てくる。仕方なく、自店舗のほうで適当に値段付けてそっちの陳列棚に載せておいた。そしたらすぐに売れて、売れたあとも今も問い合わせがある本が何点かある。曰く、その本をずっと探している、もうないのか、あれば高くても買いたい、入ったら連絡してくれと。

 それは古書マニアにとってのコレクターズアイテムとかではない。例えばあるムックは、少女向けに出されたお菓子作りの本だったりで、今成人した彼女たちが懐かしく、あるいは自分の娘に与えようとして探し求めている本だったりする。
 また、アマゾンのリストやサイト「日本の古本屋」のリストにも載っている本でも、万単位でのかなりの高値がついている本やCDがある。ウチにもあるがなかなか売れないし、もし売れれば儲けは大きい本だ。そして自分も読み手、本好きの立場からすると、長年欲しくてもそのように高値ではなかなか買えない本やCDがかなりある。値崩れを待っても希少本だからまず安くは出てこない。
 
 本なら本で版元にはその本の権利があれば、ある程度のニーズが見込まれるのなら復刊、再発すれば良いはずである。じっさい、ある出版社はアンケートで復刊、再版してほしい本の希望を募った。が、そうした企画はすぐに頓挫してしまう。何故かというと、復刊して出しても意外にも期待通りに売れないからだ。

 そうしたことを前述の古本屋氏はこう表現した。「いつでも買えるは、いつでも買わない」と。名言だと思う。確かに人は、それがなかなか買えない、希少かつ限定のものだと思うと探し求め欲しくてたまらなくなる。が、本なら本で復刊され安くまた世に出たのに、出たことを知ると、まあ後でもいいか、となる。むろんずっと探し求めていた人はすぐ飛びつくだろうが、そこまでの思いがなければ、慌ててすぐ買うことはない。

 それが人間の心理であって、食料品でも何でも、もう間もなく売れ切れ、残るは三点だけ!と煽られると大して欲しくはなくても焦って買ってしまう。もうそれで最後、限定品だと言われると買っておかないと、買わないと損するような気分になる。

 逆にそれが安くてもたくさん並んでいると欲しい気持ちはあったのに、まあ、でも慌てて今すぐ買うことはない、後でまた買えばいいやという気分になる。
 だから今出ている商品でもAKBなどのグッズは、初回限定版、と銘打って、点数をまず少ないことをウリにして希少価値を付けて売り出す。あるいは予約特典とか、同じCDでもジャケットが異なったり多種類のアイテムを出していく。そうでもしないと売れない。希少価値こそ売れるヒケツだと気がつく。人の購買欲はそこにある。そこを刺激した商品こそ売れていく。秋元康氏などはそこを常にうまく突いている。

 まあ、米やパンなど食料や衣類は生きていくのに必須のアイテムだが、本やCD、DVDなどは本来不要不急のものなのである。いつでも買えるものは人はいつでも買わない=いつでも売れないとするならば、それをあえて売る、つまり買い手が欲しくなるには、今すぐ買わないとならない、なかなか手に入らないから、という買わねばならない理由、動機づけがなくてはならない。

 ならば、いつの時代でもモノを売るにはそれなりの手なり工夫がまだあるように思えてきた。古本屋氏は、今の時代は本が売れない、本を読む人が減ってしまったと嘆きつつも決して商売は諦めていなかった。それは彼が口にしたように「古本屋というこの仕事が好きだから」であり、自分もまたもう少しこの世界であがいてみてもいいかと彼と話した帰り道あれこれ考えた。
 何しろ、古本商いこそ、それぞれほぼ一点ものの希少なものを扱っているのである。それらを丁寧に売っていけば活路は開かれるのではないか。

 ところで、自分はその日、その店で何を買ったかというと、店頭に出されケースのまま売られていた岡晴夫などのもあるSP盤が入ったボックス2箱×300円と、ほるぷが出した名著復刻本(破れあり)一冊100円のを4冊、合計千円であった。そう、SP盤こそ今は貴重なので出会ったとき今すぐ買わないともう手に入らない。これが京都北野天神の骨董市だったら何万円の値がつくかわからない。
 そう、「限定・希少」という誘惑に人は弱いのである。