今の人たちは考えない、思わない2012年12月18日 10時37分13秒

★命や平和では票は動かないのか・・・

 詐欺とイカサマの世であるが、今回の選挙結果こそその極みではなかろうか。
 自民は大敗した前回の総選挙の時よりも比例、小選挙区も大幅に票を減らして記録的大勝を得たのである。人口そのものが減ったというわけではないのだから、投票率も戦後最低まで下がったこともあり、改憲や国防軍創設を公約に掲げた彼らをじっさいに支持し信任した人たちは実はごくごく僅かなのである。

 だのに小選挙区制というマジックで、多党乱立の隙間をぬってまさに漁夫の利で運よく手に入れた自公合わせて325の議席数。その権力を使いさっそく憲法改定の手始めとして、維新ら改憲他党と諮ってまず憲法96条を変えようとしている。
 繰り返すが、ゆえに国民の多くはそれを彼らに託してはいない。彼らにはそもそも憲法を変える資格も正当性もない。正しく民意が反映されない歪んだ選挙制度でまんまと手に入れた議席数でこの国根幹=憲法を変えるのは傲慢以前に言語道断、議員として人として許されることではない。刑法上の詐欺、ペテンと等しく犯罪行為だと自分は考える。

 憲法というのは国の行く末を決める基本方針であり国家の身上書なのである。全ての法律の根幹をなすものだ。それを一回の選挙でしかも詐欺的仕組みで手に入れた議席数で彼らの思うまま恣意的に変えることは全く正当性がない。まさに権力の乱用であり今の衆議院議員の多くが改憲論者だとしても本当に国民の多くがそれを望んでいるのか真摯に耳を傾けなければならない。それこそが政治家であり民主主義であろう。
 憲法改定についてはこれからも危機的状況であることを訴えていく。


 さて、今回の選挙、何故に一度は見限ったはずの自民党を国民は再び選択したのか。海外のメディアからも日本国民は危険な賭けに出た、とその心理を慮る記事が出ていた※ウォールストリートジャーナル電子版。
 むろん消去法的に、他の党よりはマシだとか、前回はかわいそうだったからという判官びいきもあろう。でも私感では、マスコミによる情報操作的「先行結果予測」が大きく影響しているように思えてならない。

 政治の話ではないが、先に、11月末迄の集計で、今年の書籍売り上げの数とベストセラーが話題になっていた。今年売れた本の1位は阿川佐和子の「聞く力」だそうだが、その時点ではミリオンセラーになってはいなかった。だから今年は本の売り上げも減り百万部を越えて売れた本は出なかったことになっていた。
 が、一度その順位がマスコミで報じられたとたんその本は飛ぶように売れだして、今では立派なミリオンセラーであり、おそらく来年もしばらく売れ続けることであろう。その本の内容について報じたわけではない。ただ、その本が一番売れたというだけで今の人たちはならば自分も読んでみようと争って買うのである。

 「ミーハー」という言葉がある。語源を辿れば戦前からある言葉のようでもあるが、記憶だと、評論家大宅壮一のテレビ批判の名言「一億総白痴化」の頃と関係していて、要するにマスコミが報じる流行にすぐ飛び乗る、踊らされる婦女子を指していたはずだ。でも先の阿川の本も同じだが、今の日本人は男も女も老いも若きも皆「ミーハー」化していて、マスコミが取上げると深く考えず何となくすぐさま飛びつく傾向が強いと断言する。

 今回の総選挙も、当初は自民復調という程度の予測であった。それが各紙各雑誌競って予測を載せて、そのどれもが自民圧勝かと報ずれば投票日が近づくにつれますます自民党に追い風が吹いたように思える。つまりミーハーな人々は、勝ちそうな勝ち馬に乗ろうと深く何も考えずに自民に投票したひとも多いのではないか。

 元より日本人は協調性の高い、横並びを好む民族性である。人の和を乱す異端児は打たれるし何事も皆がすることに倣う傾向が強いのは昔から指摘されている。今回のようにやたら先行予測でマスコミが自民自民と騒ぎ、自民が勝つと報じると無意識的に今度は自民党かなあ、という心理が生まれる。

 前回の選挙の時だって、勝つのは自民か民主か、いよいよ政権交代なるかというテーマがマスコミの最大関心事であった。結果、その答えとして民主党圧勝、政権交代となったのである。つまり、その時どきのマスコミの報道一つで、ミーハーな人たちはすぐに影響を受けて即行動してしまうのである。そこには思考という一番肝心な行為が欠けている。ではいったい何でそうなったのか。

 思うに、やはりこれはテレビの影響、それに携帯型ゲームの普及なども大きく関係しているのではないか。大宅がいみじくも指摘したように、テレビが広く家庭に普及しテレビばかりを見ていると国民は何も考えなくなる、結果白痴化するというのは卓見であった。
 今でも同じことだが、テレビというメディアは止まって考えることを許さない、許されないメディアで、そこが本とか雑誌と根本的に異なる。放送というものは即時性とスピード感が命であり、次々と情報が移り変わり進んでいく。
 バラエティ番組などに顕著なように、カメラが向けられたらいかにすぐ反応を返せるかが問われている。そこで、えーと・・・ともたもたしたり、考えさせて下さいともたついていると場の空気が読めない奴とスルーされてしまう。求められているのはいかにすぐその場で反射的に面白く受ける反応、気のきいた面白いことを返せるかが人気者の条件なのである。
 結果、白痴化したかはともかくも日本人の多くは何事にも考えずにすぐ反応することだけに特化していった。それはモンハンなどのゲームに興ずるプレイとまったく同じである。もたもたゆっくり止まって考えているとゲームにせよ何であれ負けてしまうのだから。
 そうした「反応」を返す人たち、ミーハーな層は、当然のこと今度は自民党が勝つと脳に入力されればすぐその通りの反応をしてしまうのである。

 今回の選挙、いくつもの争点があった。憲法改定もだが、やはり原発をどうするか、消費税増税の是非、TPP交渉の扱い、震災復興のあり方など難題山積みであった。そしていくつかの中小政党は、国民の命と平和、安全を前面に掲げて、原発をすぐにゼロにして国民の命を守り安全安心して暮らしていける政治、この国の中長期的ビジョンを訴えた。
 が、結果を見る限りそうした政党は支持を集められず、やはり多くの人々の関心が向かった争点は「雇用と景気」であったのだ。そしてそのことを最も強く訴えて、TPP、原発問題などについては具体的に何も語らなかった自民党が勝ったのである。

 景気と雇用は当然最重要課題であることは間違いない。しかし、その目先のことの裏に、憲法改悪や原発再稼動、存続という「毒」が隠れていたことも考え、検討せねばならなかったはずだ。それについては目をつぶったのかもしれないが、確実に果たせる見込みもないバラ色の経済政策と引き換えに日本人はいちばん大切なモノを放棄してしまうのである。
 今の日本人に一番必要なものは「聞く力」もだが、まず「考える力」そして「思う力」=想像する力なのだ。