12月12日、冷たい雨の朝、老犬死す。2018年12月12日 08時50分33秒

★またもお別れは突然に、しかも迂闊にも我が死なせてしまった。

 書くべきか今も迷うが、これまでずっと一連の経緯を記してきた以上、何もふれずに頬かむりしてやり過ごすことはできない。申し訳ない。

 毎度、当ブログで愚痴こぼしてきた、呆けて徘徊遠吠えしまくりの老犬トラさんは死んでしまった。老衰とか自然死ではない。
 家の中での事故死で、ある意味我がうっかり殺したようなものなのだ。今、毎度のことながら自分の愚かさと迂闊さ、そしてつまるところ人としての弱さ、低さを痛いほど噛みしめている。まったく情けない。

 縁あって山梨から引き取ってウチに来てまだ2年弱。去年の冬から衰弱が進み、このところの呆けの悪化とまた歩行困難が始まってきたことから、この冬が越せるだろうかと案じていたが、まさかこんな形で別れが来るとは思いもしなかった。
 元々来た時からあまり若くなく、前の飼い主に可愛がられず飼われていたらしく人間に対して警戒心と畏怖感だけは強く、人に甘えたりとかまったく愛嬌ないどころか最後までその犬の反応はつかめなかった。当初は頭を撫でようとしただけでぶたれるかとビクッと身体をすくめるような有様だった。
 名前もわからないので、こちらでトラと名づけて、トラさんと日々呼びかけてもそれが自分のことだとわかっているのか、呼んでも来るわけでなし何も反応は一切返さない。徘徊してるとき道で捕まえても、我が飼主だと果たしてわかっていたのだろうか、抗いも喜びもしやしない。
 ただこのところはやっと何か機嫌か体調がいいときなのか、尻尾ふってるときもよくあったし、何考えてるか表情がつかめないだけ、人間には一切甘えない、まあそういう個性なのだと諦めて飼い続けていた。
 そして昨年の秋口から、外に出していると吠えて泣き叫びずっと騒ぎ出し、ご近所から苦情噴出、仕方なく以後ずっと室内飼いすることとなった。寒さもだが、犬も呆けて認知症となって、何か漠然とした不安感がそうさせるのだと医師は言い、じっさい家の中だと吠えることなく静かに眠ってくれていた。とうぜん、排便排尿のときは、したくなると自分で吠えて外に出たいと騒ぐ。その都度、夜でも連れ出していた。

 それが、このところ頻出してきて、昼間眠らせているのがいけなかったのか、夜になると必ず毎晩最低三度は外に出たいと騒いで我を起こす。夕方、夕食時、犬に食餌与えるとまた散歩、それからしばらく静かに眠っていて、我も零時ごろ二階の自室で眠りにつくと午前一時半頃、次いで3時か4時、そして早朝6時前頃。
 これでは我も睡眠が分割されて長く眠れないだけでなく、一度外に出て短時間でも散歩してしまうと、眼が冴えてまたすぐに眠りにつけやしない。そんなで午前過ぎに一度起こされて、そのまま寝疲れないままベッドで本読んだりしているとまたトラさんが吠え出すということもあって、慢性的に睡眠不足となり、そこに父が在宅の日は、寝坊も昼寝もできず、目覚めていても常時片頭痛がして体調がずっと悪かった。
 しかもトラさんは、小便とかしたくて騒ぎ外に出したはずでも、家に戻るとまた少しすると同様に鳴き叫び出す。当人も何で外に出たいのか、出たことすら忘れてしまうのか、何度でも徘徊したがる。夜になると、いやこのところは昼間でも何度でも吠えて徘徊したがる。

 夏場はそんなでその都度付き合って、彼女がとことん疲れ果てるまで深夜の街をかなりの距離歩き回った。じっさい昼間は足も重くほとんど歩けず、寝てばかりなのに、夜になると元気になるのか、ひっきりなしに吠えて外に出たがる。
 このところ季節も変わり寒くなって来て、さすがに飼い主も寒さと疲労が溜まって来て、トラさんに深夜起こされると、紐を外して勝手に自分でしばらく徘徊させて少ししてから連れ戻しに行くようにもした。
 徘徊しているときは吠えないし、歩くのもよたよたなので、この町内会の中、数十m以内しか行かない。しかし、深夜でも車も走ることもあるので、老犬の一人歩きは事故に遭うかもと光る首輪も買ったばかりだった。

 そして昨夜。天気予報では、雪となるかもという話だったが、夕方から降り出した雨はかなり強く夜じゅう降り続いていた。
 トラさんは、こちらが寝る前、夜11時ごろだったか一度軽く散歩に出して、それからは騒がずわりと静かに珍しくすぐ眠ってくれた。
 が、午前3時前頃、また下で騒ぐ声がして起こされて、眠たい目をこすり雨降る中、傘さしてこの町内会を軽く一周した。が、その時は小便したのか雨で道が濡れていたこともありよく確認できなかった。
 で、一度玄関に入れた後もまだ外に出たそうなので、もう一度雨の中道に出して玄関から様子を窺っていると、犬は悄然として雨の中ただ立ち尽くしているだけだったので、抱きかかえて家に入れて居間に連れて来た。
 そして濡れた身体拭いてやって、外は雨降ってるのわかっただろう、寒いしもうおとなしく静かに眠りな、と言い含めて我は二階のベッドに戻った。
 枕元の文庫本を開いて下の様子を窺っていたら、やはり少ししたらまた鳴き騒ぎ出す声が聞こえた。が、いちおう今散歩は行ったばかりだし、外は雨で雪の予報が出るほど寒い晩なのだから、いくら吠えようがもうほっておくしかないと考え、そのままいつしか我も眠ってしまった。

 じっさい、散歩の後、すぐに静かに犬も眠るのはこのところ稀で、また少しすると呆けの虫が騒ぐのか、必ずまた鳴いて吠えて騒ぎ出す。その都度付き合っていたら我の身体が持たない。睡眠不足で死んでしまう。
 だから、犬のいるコタツのある四畳半にはペットシーツを敷き詰め、その上に布絨毯も載せてあるので、またその部屋で失禁や排便したとしても後で始末すればいいかと、とりあえず散歩を終えた後は、また騒いでいようが放擲することにこのところしていた。真夜中なのである。何度でも繰り返していたらとても付き合いきれない。

 そして、今朝がた。外はまだ雨が降っていた。我の予想した通り雪にはならなかった。時刻は8時過ぎている。
 父がショートステイで、家に居ない日だとしてもずいぶん長く眠ってしまった。いつもなら必ず明け方、今頃なら6時前後に一度は起こされるのに、と訝しく思いながら下に降りた。トラさんも寒いし雨降ってるのでまだ深く眠ってるのかと思いながら。
 が、下の四畳半の居間はトラさんの姿がなく、あっ、また掘り炬燵に落ちたとすぐにわかった。が、父用に壁にとりつけてあるバーにかけてあるフックにひっかけてあるトラさんの紐はピンピンに伸びている。慌ててコタツを覗いたら、トラはコタツの一番奥に落ちていて首が引っ張られて首吊り状態となっている。
 引き吊りだして、心臓マッサージをして名前を呼んで何度も何度も身体をさすったが、もう反応はなかった。掘り炬燵に身体だけ落ちて息が出来なくなって窒息したのだ。

 拙宅のコタツは、掘り炬燵式で、これまでもトラさんはうっかり落ちることが何度かあった。ただそのときは、フック側のある手前側のほうに落ちるので、紐の長さには余裕があったし、落ちても中で啼き騒いでいる程度で「救出」できた。
 それでも今は落ちないように、夜中は大きなイグサの座布団を盾にしてトラさんの側からは蓋をしてあった。その蓋としての座布団は、反対側から畳と同じ高さコタツの内径サイズ半分の桟で押しつけてあった。つまりウチのコタツは、人間が足を入れられるのは半分だけにしてあった。
 あろうことかトラさんは、いつも彼女がいる場所から一番奥の、堀コタツの「堀」、つまり凹んでいる部分にお尻から落ちて首吊り状態となってしまったのだ。
 フックに紐をかけておかねば良かったと言うご意見もあろう。が、紐を結んでいないと夜中徘徊して、台所のほうに行ったりまた騒動を引き起こす。その都度動けなくなってまた鳴き騒ぐ。だから念のために、コタツにも落ちないよう紐を繋いでおいたのだ。それが裏目に出た。

 雨は午後には上がった。庭の真ん中、ケヤキやイチョウから離れた根っこのあまりないところを見据えてスコップで穴を掘り、夕刻近くトラさんの遺骸を埋めた。大きなどっしりした身体は呆けはともかくまだ元気そうでこの「事故」さえなければまだまだしばらく生き永らえると思えた。イチョウの黄葉を敷き詰め、直接冷たい土に触れないよう体にもかけてやった。
 トラさんの死に顔に、イチョウの葉に、我の涙がぼたぼたしたたり落ちた。縁あって山梨から引き取ったのにこんな最期を迎えるとはただ痛恨の極みという言葉しかない。断腸の思いという言葉通り今も胃が痛い。

 手のかかる老犬トラさんはこうして突然死んでしまった。今はもう冷たい土の下だ。が、これでもう犬に夜中何度も起こされず、ぐっすり眠るときが我に来るとは思えない。今もまだ下からトラさんが啼いて我を呼ぶ声が幻聴のように、だがはっきり聞こえる。
 また我の迂闊さと愚かさが失態を招いた。悔やんでも悔やみきれない。ほんとうにかわいそうなことをした。老い先短い不遇な犬なのだから、もっとやさしく、とことん愛しつくしてやるべきだったのに。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://masdart.asablo.jp/blog/2018/12/12/9011128/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。